TOA株式会社 音楽と教育の意識調査2010
10/12

民の力で支える、子どもたちの音楽体験 -調査結果によせて-NPO法人 子どもとアーティストの出会い理事長:井手上春香10厳しい時代でも、心に豊かさを 本年度調査の特徴的な結果は、保護者が望む子どもの「生きる力」として、「論理的に物事を考える力」「高収入」などへの期待値が向上したことだと言えます。長引く不況、厳しい経済環境の中を生き抜く力を、より直接的なスキルに求める保護者の心理は、理解に難くありません。 しかし、何より着目しなければならないのは、最も望まれている「生きる力」が、3年連続して「心の豊かさ」であったこと。そして、その力を育てる科目として「音楽」が、やはり1位であったことです。どのような環境下にあっても、子どもの心を豊かに育みたいと願う保護者の思いに揺るぎはないことに、芸術活動に携わるものとして強い感動を覚えます。音楽によって得られる想像力、豊かな感性、自己肯定感、他者と共感する力は、経済的な豊かさや社会的安定を得にくくなった時代にこそ、子どもが獲得しなければならない力だとあらためて強く感じています。 一方で、子どもに芸術文化に接する機会を与えたいと考えている保護者が約9割を超えている半面、実際に与えることが出来た保護者は、平均で3割以下に留まる結果となりました。家庭が芸術文化にかける支出が減少傾向にある現状と合わせて考えても、保護者の願いとは裏腹に、子どもたちの芸術体験は決して充実しているとはいえない状況であることが浮き彫りになりました。新たな芸術文化の担い手 ―企業メセナとアートNPO- こうした現状に呼応するように、子どもたちの芸術体験を支える社会的基盤が、整備されつつあります。特に着目すべきは、企業の文化支援活動であるメセナ活動、市民活動であるNPOなどの「民の力」です。 最新の調査1 では、企業のメセナ活動において「青少年への芸術文化教育」を重視する企業が37.8%にのぼり、1997年の調査と比べて29%も増加していることが明らかになりました。CSRの浸透に伴い、地域に根ざした地道な取り組みに着手する企業が増えつつあり、その中で子どもたちへの活動に多くの企業が注目している現状が見てとれます。加えて、NPOのうち芸術分野の活動を行うアートNPOの設立件数は、2008年9月で3,551法人にのぼっています。また、芸術ジャンルにおいては、とりわけ音楽分野の充実ぶりが顕著です。企業メセナにおいては音楽の活動実施企業は39.4%で最多。加えて、アートNPOのうち音楽分野の活動を行っている団体は52.3%にのぼり、他の芸術ジャンルと一線を画すことが報告されています2。 こうした現状は、地域に根ざした良質な芸術プログラムを生み出す大きな可能性を秘めています。子どもたちの芸術体験を支える民の力は、新たな芸術文化の担い手として注目すべき存在に成長しつつあると言えます。教育に、民の力を 教育を取り巻く環境変化として注視すべきは、2011年度から施行される新学習指導要領です。算数・理科の授業時間の増加、小学校での外国語教育の導入など、より実践的な教科カリキュラムがスタートし、相対的に芸術科目への時間配分が減少することが懸念されています。教育環境の変化、保護者の願い、そして、願いと乖離した現実。こうした時代にあってこそ、民の力による教育支援が必要ではないでしょうか。子どもたちの教育は、学校だけで行うべきものではありません。家庭や学校教育現場で心の豊かさを育むことはもちろん、地道ながら子どもたちへの音楽体験の機会を創出している民の力が、学校や地域社会に受け入れられ、積極的に活用されていくこと。それこそが、この厳しい状況下においても芸術文化の活動を途絶えさせることなく発展させ、社会全体で子どもたちの豊かな心を育み、次なる豊かな時代を創出することに繋がると信じています。1:2009年度「メセナ活動実態調査」社団法人企業メセナ協議会調査2:「アートNPOデータバンク2008」NPO法人アートNPOリンク調査

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