特集
世田谷パブリックシアター
課題・解決のポイント
世界的に評価の高い世田谷パブリックシアターのスピーカーシステムの改修で「typeC」が採用。
1997年の開館以来、コンスタントに年間80公演が行なわれる世田谷パブリックシアター。現代演劇や舞踊の舞台として約600席(基本形状)の劇場で、形状は可変設備によって2つのパターンに変化します。舞台芸術の多様なプランに対応する高水準の機能と設備を備えています。
老朽化にともなうスピーカーシステムの全面入れ替えで、既設のスピーカールームに納まり、なおかつ全客席をカバーするスピーカーシステムとして、TOAではラインアレースピーカー「typeC」をご提案。ストレートプレイ※の多い当劇場の自然な音場の構築に貢献しています。
納入時期 | 2009年10月 |
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納入先 | 世田谷パブリックシアター 様 |
採用背景 | 1997年に開館した世田谷パブリックシアターのスピーカーシステムの改修で、ホール全体をカバーする、既設のスピーカールームに入るスピーカーシステムが求められた。 |
課題
- 世田谷パブリックシアターの老朽化にともない、プロセニアム・センター、プロセニアム・サイドのスピーカーを総入れ替え。
- 改修のため、既設スピーカーが入っていたスピーカールームに納まるサイズのスピーカーが大前提。
- 2つの劇場形状をセンターと左右両サイドのスピーカー(L・C・R)でカバーできるスピーカーシステム。
- ストレートプレイ※の芝居演目が多い。演劇の場合、生声は距離減衰を起こすため、セリフのバックに流れるBGMや効果音はすべての客席位置でバランスを崩さないことが必要。
- 海外からの招聘作品の公演の際は使用機器の指定をしてくる場合があるため、海外著名ブランド以上のパフォーマンスが求められる。
※BGMや効果音は音響機器で拡声するが、セリフに関してはスピーカーを介さず、生声を届けること
解決のポイント
- 改修によるサイズやカバーエリアの課題に、ラインアレイスピーカー「typeA」のコンパクトモデル化の開発に着手。
- 「typeA」に搭載されている“シンクドライブ”という同位相波面制御スロート技術を踏襲し、シミュレーションを繰り返し、高精度な波面制御を実現。数本のスピーカーが1本のスピーカーのように機能するラインアレイの基本性能を忠実に実現化する「typeC」を開発。
- プロセニアム・センターには「typeC」を横に5台アレイ配置することで、水平方向75°、垂直方向80°をカバー。(特注ホーン採用)
- プロセニアム・サイドには、「typeC」を縦方向に5本アレイ配置、サブウーハーもサイズを調整することで既設のスピーカールームに設置可能とした。水平110°、垂直方向45°のエリアをカバー。
導入システム・機器
ラインアレイスピーカー「typeC」
ラインアレイスピーカー「typeC」は、上位機種「typeA」の技術を踏襲し、高音域用ホーン部に、TOAが独自に開発した「等位相波面制御スロート技術」(国際特許取得)を採用。上下に連結したスピーカー同士の干渉を抑制し、連続した1個のスピーカーのように、明瞭性の高い均一な音場を実現できます。システムで中高音域を担当するSR-C8シリーズは2wayスピーカーシステムで、高音域用に1インチドライバー×2台、中音域用に20cmウーハー×1台を搭載し、磁気回路には軽量化のためにネオジウムを採用。連続プログラム入力360Wの高出力を実現しています。
プロセニアム・センターには、SR-C8Sが5台とサブウーハーSR-L1Bが2台、プロセニアム・サイドに関しては、SR-C8Lを3台挟んで上下にSR-C8Sを2台、サブウーハーSR-L1Bが2台、左右それぞれに設置され、ホール全体をプロセニアムのL・C・Rの3基のスピーカーがほぼ全席をカバーするという理想的なホール音響ができました。
Point
- ラインアレイスピーカー「typeA」の試聴時のクオリティ
- 「typeA」に搭載した技術をベースに、コンパクト・モデル「typeC」を開発
- 全ての客席をまかなえるカバーエリア
- スピーカールームに入らなかったサブウーハーのサイズカスタマイズの対応
- 設置後15年程度は継続して使用できるメンテナンス性、信頼性
お客様が語る「採用のポイント」
- 既設のスピーカールームへの設置が可能
- 劇場全席をL・C・R(サイド左・センター・サイド右)3基のスピーカーでカバー
- オープン以来、設計・施工、その後の保守点検を通じて得られた経験、信頼
採用決定ストーリー
既存スピーカーからラインアレイスピーカーへの入れ替え提案
日本を、世界をリードする劇場の繊細な音場の構築に貢献。
世田谷パブリックシアターは、1997年に開場以来、現代演劇や舞踊の舞台として、年間約80公演が上演されるほか、地域の公共劇場として講座形式やワークショップ形式による教育普及事業に取り組まれています。また、単なる施設だけではなく、作品創造のために芸術監督や制作・学芸・技術分野の専門スタッフを配置した新しい運営スタイルは、全国の公共劇場から常に注目されています。
オープン時は、海外製のスピーカーを固定設備や可動設備に全面導入してきましたが、開館して13年の間、さまざまな演劇や舞踊のためにスピーカーシステムを使用してきて、次第に疲弊が目立ってきました。5年経過時に全面的なユニット交換を実施、10年以上を経過したときに、使用する機器の中に後継機種がないものなどがでてきたため、今回の全面総入れ替えに至りました。
TOAでは、開館以来、世田谷パブリックシアターの音響設計・施工を担当しており、主劇場の音響についていろいろな試行錯誤をともに繰り返してきた中で、世界的にも評価の高い劇場としてふさわしいスピーカーシステムを検討してきました。
- 世田谷パブリックシアターに必要な音響機能
- ラインアレイスピーカー「typeA」の試用に手ごたえ
- 既設の取り付けスペースに設置できるコンパクトなスピーカーの開発
- 最適なカバーエリアを得るためのスピーカー配置
- 世界に羽ばたく劇場にふさわしい音響システムを構築
- 世田谷パブリックシアターに必要な音響機能。
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演劇の基本は俳優の声です。世田谷パブリックシアターでは、BGMや効果音は音響機器で拡声して、セリフはスピーカーから流さず生音で演じる「ストリートプレイ」での上演がほとんど。生声は距離減衰を起こしますが、BGMや効果音はすべての客席位置で生声とのバランスが崩れないことが前提です。また、演劇のほかにも、ミュージカルや音楽劇、ダンス、歌モノ※など幅広く公演されているため、自由度の高いシステムが要求されます。
また、世田谷パブリックシアターでは、海外からの招聘公演や共同制作公演も数多く手がけられています。海外の音響プロデューサーが使用機器を指定してくることもあるため、劇場側は指定してくる機器と同等以上の機器の提供が求められます。 - ラインアレイスピーカー「typeA」の試用に手ごたえ。
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TOAでは、世田谷パブリックシアターの音響設計・施工を通じて、劇場の音響システムについて現場での経験やデータなどを蓄積してきました。その中で、2005年にラインアレイスピーカー「typeA」が開発され、現場で試用してみたところ、サイズ的には大きかったのですが、クオリティはまずまずでした。世界的に活躍するタップダンサー熊谷和徳さんの「TAP is ALIVE」の公演のときには、距離による音の減衰が少ないラインアレイ方式によって届けられる熊谷氏のリズムパフォーマンスが質感、量感的にも優れており、クオリティ的にも海外製品に匹敵する製品が作れているという判断でした。その際に、「ここに入る大きさのスピーカーができないか」といった相談をいただき、「typeC」の検討を始めました。
- 既設の取り付けスペースに設置できる、コンパクトなスピーカー「typeC」の開発。
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課題になったのは、既設のスピーカールームに設置できるかというスペースの問題とカバーエリアの問題がありました。今回は、あくまでも改修なので、現状のスピーカールームに納められるというのが大前提でした。
プロセニアム・サイドにあるスピーカールームは、余計な響きをつけないために最小限のルームになっており、どう設置できるかがポイントになりましたが、「typeC」を5台天井から吊り下げることで、既存のスピーカーと同程度のサイズに収めることができました。サブウーハーについては、既存のものよりもサイズが大きかったため、性能を落とさない範囲でダウンサイジングする特注で対応しました。
プロセニアム・センター・スピーカーについては、「typeC」は横アレイ配置も可能なため、プロセニアム・センター・ブリッジ内に5台の「typeC」を収めることができます。これにより、同一のスピーカーで基本のL・C・Rのスピーカー構成が可能になるという理想に近づきました。 - 最適なカバーエリアを得るためのスピーカー配置。
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カバーエリアに関しては、サイドスピーカーは水平方向に90°以上ないとホール内をカバーできません。既設スピーカーは90°のため全体をカバーするために、上下のスピーカーの角度をずらしてカバーエリアを広げ、足りないエリアは補助スピーカーでカバーしていました。「typeC」は水平110°を確保できているため、サイドの壁面に音を当てないような角度で設置すると、プロセニアム・センター・スピーカーと合わせることで、客席のほとんどをカバーできました。
プロセニアム・センターは、15°タイプの「typeC」SR-C8S(*1)を5台横アレイ配置する事で水平方向の指向性が75°(*2)になり、ほぼ全席カバーできるようになりました。5台横アレイ配置での「typeC」の垂直方向の指向性は110°ですが、それだと指向性が広すぎ、舞台まで音が入り込んでしまうために(*3)、80°の特注品(*4)を用意して対応しました。
プロセニアム・サイド・スピーカールームの全面には、鉄筋が使われた横桟がデザインとして組み込まれていますが、スピーカールームの中に実際に使用するスピーカーを仮設置して実験したところ、ほとんど影響がないとの結論にいたりました。また、水平のカバーエリアについての試聴も行ない、壁の反射や舞台への回りこみなどについての確認も行ないました。 - 世界に羽ばたく劇場にふさわしい音響システムを構築。
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今回の改修にあたっては、製品の信頼性や導入後のメンテナンス対応も、TOA「typeC」に決めた要因の一つになっています。公共設備では、いったん設備を導入したらある程度の期間はその状態で使い続けなければなりません。また、その間は適切なメンテナンスにより設備の維持に努力する必要があります。
今後のメーカーとのコミュニケーションの継続、15年程度は現役で製品を提供している可能性が高く、技術情報のやりとりができるメーカーをということで、開館以来、設計・施工を担ってきたTOAに白羽の矢が立ちました。また、製品品質の面でも試聴会などによる聴き比べを行ない、海外製品に匹敵する品質を確認いただいたことも大きな要因です。
※ 歌モノとは、楽器編成(インストゥルメンタル)のバンドの演奏に対し、ボーカル中心のバンド編成の演奏を指します。
インタビュー記事
オペレーターにとっては非常に扱いやすいシステムです。
- 世界的にも著名な劇場の音響システムとして、恥ずかしくないシステムを構築していきます。
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財団法人せたがや文化財団
世田谷文化生活情報センター
世田谷パブリックシアター
技術部長 市来 邦比古 氏
- オペレーターにとっては非常に扱いやすいシステムです。
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財団法人せたがや文化財団
世田谷文化生活情報センター
世田谷パブリックシアター
サウンド・チーフ 尾崎 弘征 氏
- ラインアレイスピーカー「typeC」の第一印象はいかがですか?
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尾崎 氏
スピーカーのデモなどを通して、「マイクはやりやすくなる」というのが、最初に聞いた第一印象です。芝居が終わって役者や演出家、監督などが出てきて行なう「ポストトーク」は毎回、短時間でそのセッティングを行なってお客さんに心地よい音質で届けないといけないのですが、その作業が劇場管理サイドから非常にやりやすくなりました。
以前のスピーカーとの比較でも、やりやすくなったと感じます。音色、音質の面で人の声の帯域の部分でそう感じました。扱いやすいスピーカーであることは間違いありません。 - 使ってみてのご感想は?
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尾崎 氏
毎年恒例の歌モノ※の企画で、以前はスピーカーシステムを2/2(ハイボックス2台、ウーハー2台)で組んで、舞台上にセットして約10年間公演していましたが、今回ライブをする際に、「TOAのスピーカーでいいよ」という話になって、常設の設備を使ってもらいました。終了後の感想も「よかった」ということで、満足いただきました。以前、TOAのZ-DRIVEのスピーカーを使っていたとのことで、「その音色が記憶に残っているせいかもしれない。やりやすかった」といっていただきました。
また、とある公演修了後にサックスとDJよるセッションを大音量の中でやりました。その際にDJが使用したマイクがポストトークで使用するようなスピーチ用のマイクでしたが、かなりの音圧を上げても大丈夫でした。セッティング時間も短かったのですが、それでもサックスの音やマイクの音もしっかり再生してくれました。ディスコサウンドを作ろうとしても作れる手ごたえを感じました。 - 現状出てきている課題について教えてください。
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尾崎 氏
以前、外国のカンパニーがやってきて、冬のなだれのシーンで、「ずどどどどーん」というようなSEがありました。サウンドチェックをはじめると、ミシミシ音が出始めて…。いろいろ確認していくと、ハイボックスからミシミシと聞こえていました。想像ですが、そのようなSEの再生では表面積の少ないハイボックスのロー(ウーハー)の方に一番負荷がかかります。今のシステムは、スピーカー室の容量ではある意味仕方ないかもしれません。それ以外はプロセッサーの調整でできるかもしれないので、リミッターを設定して突っ込めば、対処可能かどうかも含めて検討していきたいと考えています。
- 今後の抱負について教えてください。
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市来 氏
今後の展開としては、補助スピーカーのリニューアルを検討しています。その次は、デジタルコンソールが3年後に更新予定となっています。こちらは基本設計の予算次第になりますが、世田谷パブリックシアターは海外招聘公演も多く上演しており、共同制作にも意欲的に取り組んでいます。そういう劇場ですので、今後もそれに恥じない劇場設備、音響システムであり続けられるように設備の維持・拡充を図っていきたいと考えています。
※ 歌モノとは、楽器編成(インストゥルメンタル)のバンドの演奏に対し、ボーカル中心のバンド編成の演奏を指します。