特集
自治体防災担当者による “現場からの提言”(第2回)
第2回目は、2012年に防災情報放送システムの構築を担当された沖縄県宮古島市 総務部 総務課 防災・危機管理係 川満秀海氏にお話をうかがいました。
スペシャルインタビュー
- 防災情報の質とスピードを高めることを通じて、市民の防災意識を高揚する。
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沖縄県宮古島市 総務部 総務課
防災・危機管理係 川満 秀海(かわみつひでみ)氏
- -川満さんが考える防災対策の基本的な姿勢、方針を教えてください。
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行政だけでできる防災対策の範囲は限られており、マンパワーにも限界があります。市役所の職員だけで宮古島市民約55,000人を守ることは不可能に近いことです。備蓄品も相当な量になるため、市がすべてを賄うことは現実的ではありません。やはり、市民一人ひとりの防災意識を高め、地域の防災力を向上し、「自分達の地域は、自分達で守る」という想いが重要だと考えています。
災害発生時にいかに被害をとどめ減災につなげるか、これは時間との戦いです。お年寄りや障がい者、病人など災害弱者の方の避難を優先してサポートしながら市民は自主的に避難できるように、地域の防災力、防災意識を高めていける体制を構築することを最優先に考えています。
そのためには、行政からの情報提供が重要になってきます。避難体制を構築しても、正確な災害情報が市民に届かなくては、意味がないのです。とくに3.11の東日本大震災以降は、「市民に対していかに迅速・的確に災害情報を伝えるか」が自治体の防災担当者として問われていると考えています。市民が自分で判断し、適切な避難行動が取れるような災害情報の質と伝達のスピードが重要なのです。宮古島市では周辺で大きな地震が発生した場合に、20分程度で大きな津波が到達するといわれています。万が一災害が発生した際にも、離島在住者や観光客も含めて、しっかりとした情報伝達と避難体制を構築しておくことが必要です。幸い宮古島市では自治会組織がしっかりしています。また、自主防災組織を作るための説明会なども行政主導で約30カ所に行っており、現在も継続して実施しています。また、消防署や警察、ボランティア、民生委員などとの連携も密にしています。このように行政が関係部署や市民との協力によって防災対策を取り組んでいくといった一体感も必要だと考えています。
- -宮古島市の防災対策の概要を教えてください。
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宮古島市では、以前はアナログ方式の防災無線と一部地域ではIP告知放送システムを活用していましたが、宮古島市全域をカバーして市民全員に同じ災害情報を伝達する手段がありませんでした。防災無線は設置から30年近くが経過しているため、老朽化により「放送が聞き取れない」といった苦情や放送内容を確認する問い合わせが寄せられる状況でした。また、どこの自治体でもそうだと思いますが、電柱を立てて屋外拡声器を設置して放送を流すと、周辺の住民からは必ず「うるさい」といったクレームが殺到します。とくに市街地では防災無線による放送が重複する地域があり、放送内容が聞き取れず、結果として騒音苦情を寄せられるケースがありました。防災無線のアナログ周波数帯の使用期限などの問題もあり、新たに防災情報放送システムを整備する上で、これらの課題を解決できるシステムを検討することになりました。
新しい防災情報放送システムでは、宮古島市全域をカバーできること、停電時や就学や勤務などで災害情報に接することができない市民向けへの情報伝達を考慮しました。平常時の市民の防災意識を高め、災害発生時では安否確認や避難所の情報などの情報収集・確認、消防や警察などの関係各所との連携を考慮した機能的で拡張性の高い防災情報システムを目指しました。
このシステムでは、学校や公民館、市の出先機関や海岸など、宮古島市全域の152カ所に設置した放送設備と市庁舎の屋上に設置した5基のホーンアレイスピーカーで防災情報や行政情報を放送しています。ホーンアレイスピーカーは音の干渉が少なく、到達距離も長いので、苦情や放送内容の問い合わせもなくなりました。逆に放送内容について前向きな改善要望をいただくなど、市民の意識も変わりつつあります。時報などの定時放送や自治会のお知らせなど、日常的な利用が活発になってきています。
また、音声による放送だけでなく、放送した内容が携帯電話やパソコンにもメールで配信されるなど、複数の手段による情報伝達も確立でき、二重、三重の防災対策につながっています。観光客などへの情報提供も可能になっていますので、安心して宮古島の旅を楽しんでいただけます。
運用面では、以前は市役所の放送設備の前でしか緊急放送ができなかったのですが、現在は登録された携帯電話や一般の固定電話を使って遠隔地から防災情報や行政情報を市内に一斉放送ができるので、迅速な対応が可能になりました。 - -全国の防災担当者の方へのメッセージをお願いします。
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私はもともと消防署の救急医療の担当でしたが、4年前に出向で宮古島市の防災担当の職に就きました。私は防災担当になる以前から、自分の中で与えられたポジションで最善の努力を行うことを常に意識しています。現在ですと宮古島市の防災・危機管理担当のポジションでベストを尽くしたいと考えています。防災対策にゴールはありません。日々の取り組みを積み重ねることでしか前進しないのです。そのために市民の意見や声に耳を傾け、議会や議員の議論も参考にしながら、また他地域の取り組みなども情報収集し、常にベストを尽くしていきたいと思っています。
全国の市区には防災課の部署が必ずありますが、防災課が事業を抱えているところは少ないように思います。防災課は事業部門ではないので、防災無線なども他の部署の事業としてやっていることが多いのです。防災対策というのは、ある程度予算をかけないとできません。防災担当は建築や土木の専門家ではないので、そこはほかの部に任せるのも一つですが、私は建築や土木が関わる事業でも積極的に手を挙げて率先して担当するようにしています。建築・土木の専門家ではありませんが、防災・減災のために何が必要かは自ずと見えてきます。今後もどんどんチャレンジして、より万全な防災対策を実施いきたいと考えています。
宮古島市では、今回の防災情報放送システムの構築で市民に対する情報伝達の仕組みはある程度構築できました。今後はその情報を受け取った市民が自分たちで判断し、行動できるような地域の防災力向上に向けた啓発活動と組織化の取り組みをさらに推進していきたいと考えています。
防災関係の事業は現在立てやすい環境にあります。市民も危機感を持っています。今が防災・危機管理担当者としてのがんばりどきです。全国の防災・危機管理担当のみなさんも現状に満足することなく、「技術者じゃないのでやらない」ではなく「技術者じゃなくてもできる」という意識で、どんどんチャレンジしていってほしいと思います。宮古島市の事例がみなさんの何らかの参考になれば、幸いです。
宮古島市の概要と想定される自然災害
宮古島市の概要
宮古島市は沖縄本島から南西に約300km、東京から約2000km離れた、北緯24~25度、東経125~126度に位置する、大小6つの島(宮古島、池間島、来間島、伊良部島、下地島、大神島)で構成されています。宮古島と池間島は池間大橋、宮古島と来間島は来間大橋、伊良部島と下地島は6本の橋によって結ばれています。
2005年(平成17年)10月1日、平良市と宮古郡伊良部町・上野村・城辺町・下地町の5市町村が合併(新設合併)して誕生しました。総面積は204平方km、人口約55,000人、世帯数約25,000戸で、人口の大部分は平良地区に集中しています。
島全体がおおむね平坦で、低い台地状を呈し、山岳部は少なく、最高の標高も113メートルしかありません。大きな河川もなく、生活用水等のほとんどを地下水に頼っており、地下水を守ることと環境作りのため、「エコアイランド宮古島」を宣言しています。また、毎年国際的規模のイベントである全日本トライアスロン宮古島大会、プロ野球のキャンプ、各種スポーツ団体の合宿等が行われ、島全体が「スポーツアイランド宮古島」としても活気づいています。
過去には約40mの大津波が襲来したとの記録も
台風は年平均5個も接近、強風による被害をもたらす
宮古島地方は一般的には地震の少ない地域と思われがちですが、過去には大きな被害をもたらした地震・津波が発生しています。1771(明和8)年4月24日に発生した「明和の大津波」では、石垣島近海を震源としたマグニチュード7.4規模の地震により発生した高さ約40mの大津波が宮古・八重山地方を襲ったといわれ、約2,500名が死亡、多くの村が壊滅的な被害を出したとの記録が残っています。宮古島の北西にある下地島には、この大津波により打ち上げられたと伝えられる「津波石」があります。
内閣府が2012年8月に公表した南海トラフ地震の被害想定によると、津波による浸水域は四国沖から九州沖を中心に大津波が起きる場合、宮古島市では深さ1メートル以上、1平方キロの浸水が発生すると予測しています。南海トラフの巨大地震が沖縄地方の海溝型地震*の引き金となる可能性も指摘されています。
また、地震や津波だけでなく、宮古島は「台風銀座」と呼ばれるほど台風の通り道になっており、年平均約5個の台風が接近しています。日本の最大瞬間風速の上位3つのうちの2つが宮古島で観測されているほど、規模の大きい台風がいくつも宮古島を通っています。本州の台風と比較すると風速が強く、速度が遅いのが特徴で、そのため通過にも時間がかり、多くの被害を出しています。とくに2005年の台風9号では、25m以上の暴風域が約27時間以上にもわたったと記録されています。台風による被害は、川や山がないため強風によるもので、中でも2003年9月の台風14号は最大瞬間風速74.1mを記録、風力発電機の羽が折れて飛ばされたり、窓ガラスが割れるなどの被害が続出しました。
*海溝型地震:
2011年3月に起きた東日本大震災の地震や関東大震災、スマトラ沖地震もこの型で、海側と大陸側のプレートのもぐりこみによって発生する地震。